乳房再建 Breast reconstruction
乳房再建について About Breast reconstruction
乳房再建の概要
はじめに
乳房再建とは乳癌を切除してなくなった乳房を何らかの方法で作る(再建)ことです。あるいは部分切除して乳房が変形した場合に健側(手術をしていない側)の乳房にできるだけ近づける方法も指します。
大体の方法に保険が効きます。
当院は乳房再建も力をいれたいと考えており、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会により
エキスパンダー (二次再建)
インプラント (一次二期再建・二次再建)
の実施施設としてこの度申請し、認定されました。
この認定施設であれば、エキスパンダー、インプラントを用いた再建手術が健康保険を利用して行うことができます。
私自身はどうなのかというと、勤務医時代は全国的にも数多くの乳房再建を扱う施設に在籍していたこともあり、乳房再建を専門の一つとしていました。人工物から自家組織まで患者さんにもっとも合う再建方法を偏りなく提示できるように経験を積み重ねてきたつもりです。また人工物から自家組織再建まで、いずれの臨床研究も行っておりましたので、そこで得られた知見も還元できればと思います。
ここではこれから乳房再建をされる方、乳癌切除して再建してなかったけれども再建を考えている方向けに、再建の基本的な考え方を頭にいれられるように書いています。乳癌を告知された場合はショックと乳癌の治療であたまがいっぱいになり、再建まで頭がまわらない方が多いかもしれません。その場合まず、乳癌の治療の理解を優先してください。再建は後からでも可能です。どのような時期にどのような方法があるか簡単に読み流していただければと思います。
1. 一次再建?二期再建?
乳房再建でまず知っておいてほしい用語の解説として一次とか二次再建、一期とか二期再建というものがあります。
- (1)一次or二次?
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乳癌をとる手術と再建を同時にするのが一次再建です。
乳癌をとる手術がおわって落ち着いてから行う手術が二次再建です。 - (2)一期or二期?
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これは再建の回数です。
再建手術を1回で終わらせてしまうのが一期再建です。
再建手術を2回かけて完了させるのが二期再建となります(具体的には1回目はエキスパンダーをいれて膨らませて2回目はエキスパンダーをインプラントや自家組織に入れ替えるという形になります)。 - (3)組み合わせ
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これらの組み合わせパターンとしては以下のようになります。
- 一次一期再建
- 乳癌をとる手術と再建手術を同時に(一次)やって、一回で(一期)再建手術を終わらす(エキスパンダーをいれずに同時に一回で再建する)
- 一次二期再建
- 乳癌をとる手術と同時に(一次)エキスパンダーを入れて、二回(二期)目の手術でインプラントや自家組織に入れ替える
- 二次一期再建
- 乳癌をとる手術が終わって落ち着いてから(二次)、一回で(一期)再建手術を終わらす(エキスパンダーをいれずに一回で再建する)
- 二次二期再建
- 乳癌をとる手術が終わって落ち着いてから(二次)、エキスパンダーを入れて、二回(二期)目の手術でインプラントや自家組織に入れ替える
2. 再建の種類
乳房再建には大きく分けて以下の二つの再建があります。
- (1)人工物による再建
- (2)自家組織による再建
それぞれメリット・デメリットがあります。
- (1)人工物再建について
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人工物で代表的なものにはインプラント(シリコンバック)による再建があります。
メリット:他の場所に傷がつかない、術中術後の負担が自家組織比べて比較的少ないなど
デメリット:メンテナンスが必要、再建できる乳房の形に制限がある(垂れている乳房の形は再現がなかなかむずかしいです)など
実際の流れですが、インプラントはいきなりお胸に入らず、二期再建になる場合が多いです。
なぜなら、- 乳癌をとるときに皮膚も一緒に切除している
- 大胸筋が伸びていない(インプラントは一般的に皮膚の下ではなく大胸筋の下にいれるので、大胸筋の下にスペースがないと入りません)
- 乳癌をとって再建をしていない場合皮膚が縮んでいる
だいたいこれらの理由でインプラントをいれようとしても入らないのです。
ではどうするかというと、エキスパンダーというものを入れます。 - エキスパンダー挿入とは
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エキスパンダーとはある種の水風船のようなものです。大胸筋という胸の筋肉の下に挿入し、生理食塩水を注入して膨らませることによって皮膚や皮下組織を拡張させていきます。
こうして外来などで少しずつ膨らませて皮膚を伸ばしていき、後日理想の大きさのインプラントを入れるという流れになります。
- インプラント挿入とは
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エキスパンダーを入れる手術をしてから大体6-8ヵ月くらいの期間を置いてからインプラントに入れ替える手術をします。
そもそもインプラントは何かという話ですが、簡単にいうとシリコンが入った人工的につくられた乳房です。シリコンバックという言い方をすることがあります。
ただ保険で使用できるインプラントは決まっており、現在日本ではアラガン社、シエントラ社、エスタブリッシュメントラブス社のものがあります。
形も2種類あって、丸いラウンドタイプとしずくのようなアナトミカルタイプがあります。
表面の形状も2種類あって、つるつるとしたスムーズタイプ、ざらざらとしたテキスチャードタイプがあります。もうすこし詳しく言うとスムーズの中に本当のつるつるのスムーズとすこしだけざらざらしたスムーズシルクがあります。じゃあ実際は3×2×2の12種類あるのかというとそうではなくて
インプラントに関していうと
アラガン社はラウンドのスムーズ
シエントラ社はラウンドのスムーズ、ラウンドのテクスチャード、アナトミカルのテクスチャードエスタブリッシュメントラブス社はラウンドのスムーズシルクに限られております。
じゃあどの会社のどの製品がいいかというと、これをいうと元も子もないのですが、結局は健側の胸の形とそれに近いサイズのインプラントがあるかどうかによります。
いかにインプラントが入った時の形を予想できるかが重要で、手術自体はそれほど難しくないですが綺麗に再建するのは術者にそれなりに経験や勘が必要となります。
その他の判断材料としてはインプラントを使った再建の場合、稀な合併症として、乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(Breast Implant Associated-Anaplastic Large Cell Lymphoma (BIA-ALCL))という疾患があります。
オンコプラスティックサージャリー学会から患者さん向けに資料が出ていますのでリンクを添付します。
http://jopbs.umin.jp/general/docs/20220218_patient_irekae_kibou.pdf - (2)自家組織再建について
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自家組織とは自分の組織ということです。自分の乳房以外の組織をつかって、乳房を再建します。自家組織もいろいろな方法がありますが、共通するメリットデメリットとしてはインプラントと逆になります。
メリット:一度生着すればメンテナンスがいらない 垂れ気味の乳房など再建できる乳房の自由度がインプラントより高いなど
デメリット:他の場所に傷がつく、術中術後の負担がインプラントと比べて比較的大きいなど
自家組織再建の種類はいろいろあるのですが代表的なものは
- a. 腹部皮弁(深下腹壁動脈穿通枝皮弁、腹直筋皮弁)
- b. 広背筋皮弁
- c. 脂肪注入
で、この3つを説明したいと思います。
- a. 腹部皮弁(深下腹壁動脈穿通枝皮弁、腹直筋皮弁)
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お腹のお肉を使った再建方法です。筋肉をつかったものが腹直筋皮弁ですが、現在主流なのは筋肉を使わず、お腹の皮膚と脂肪の組織で再建する深下腹壁動脈穿通枝皮弁です。お腹の筋肉を使わなくてすむので、術後のヘルニア(お腹の内臓を支える力が弱くなり腸がお腹のなかから皮膚の下まで出てきてしまう状態)や膨隆(ヘルニアには至っていないが、お腹が内臓に押されて出ている状態)のリスクが軽減されます。ただし、血管と血管をつなぐ操作が必要になるため、手術がやや煩雑になるのと、血管が詰まった場合移植した組織が全部だめになってしまう(皮弁壊死)リスクがあります。
なぜ血管と血管をつながないといけないのかというと、お腹のお肉をとって胸に単純にもってきたとしてもその組織は生きていけません。体のすべての組織は血管から酸素や栄養をうけとって生きています。なので、お腹のお肉をとる際に、お腹のお肉につながっている血管を見つけ出して、血管とお肉を一緒にお胸にもってきます。そして胸やワキに流れている血管とつなぐとそのお肉が生きるというわけです。
胸が大きくて、お腹のお肉が極端に少ない人はボリュームが足りないので向いていないですが、お腹のお肉がいっぱいある人はお腹もスリムになるというメリットはあります。また脂肪なのでやわらかくて、組織の配置も比較的自由なので対称なお胸が作りやすいです。
デメリットは上でお話ししたように傷痕がついてしまうのと、ヘルニアや膨隆、皮弁壊死のリスクがあるということです。 - 深下腹壁動脈穿通枝皮弁による再建
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図のようにお胸のボリューム分だけお腹のお肉をとるように皮膚を切ります。
血管を付けた状態で皮膚と脂肪をお腹から分離します。
お胸の血管とつなぎ、ボリュームや形の最終調整をして終了です。
- b. 広背筋皮弁
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背中に広背筋という筋肉があります。どういう働きかといいますと、いろいろとありますが主に腕を後ろに下げる筋肉の一つです。この筋肉と皮膚を使う術式を広背筋皮弁といいます。広背筋はとっても大丈夫なのかということですが、基本的にはほかの筋肉が代わりをしますので日常生活問題にならないことが多いです(ただ筋力は落ちるのでアスリートの方など腕や肩を専門的に使う方には推奨されません)。
広背筋と皮膚はわきの下の皮膚を通して、血管がつながったまま移動できるので深下腹壁動脈穿通枝皮弁のように、血管と血管をつなぐ作業が必要ありません。その分、手術時間も短いですし、皮弁が壊死したりといったこともほぼありません。
ただ筋肉というのは使わないと痩せていってしまいますので、術後移植した筋肉は痩せて体積が減っていってしまいます。そういう理由からなかなか大きいお胸をつくるのは難しいです。あとは筋肉なので少し固めなのと、術後に筋肉をとったスペースに水がたまることがあります。
傷跡は筋肉をめいっぱいとらなくてよい場合では、ブラジャーに隠れるラインですみますが、とれるだけとる場合には、背中には斜めに傷がつきます。
近年では広背筋をとる範囲を少なくする、すなわち小さい広背筋皮弁を作成し、その小さい広背筋内に脂肪を注入しボリュームを増大させるという方法もあります。この方法であればブラジャーラインに隠れるくらいの傷跡でできますし、筋肉をとる範囲が少ない分、体への負担も少なくてすみます。 - 広背筋皮弁による再建
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斜めまたはブラジャーラインにかくれる真横に皮膚をきります。
皮膚、脂肪、筋肉をつけたまま剥がしていきます。
わきの皮膚の下を通して胸に移動させます。胸のボリュームや形を整えて完成です。
脂肪注入を併用する場合はこの段階で、広背筋内、皮膚の下、大胸筋内、大胸筋下にいれて体積をかさ増しします。
- c. 脂肪注入
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脂肪注入とは、どこか体の他の脂肪が多い場所から脂肪を採取し、胸に入れて再建するという方法です。この方法の最大のメリットは自家組織でありながら、傷が4-5mm程度で済み、体への負担が少ない点にあります。デメリットは現時点で健康保険が使えないため自費になること、大きいお胸の再建が難しいこと、多くの場合で複数回の施術が必要になるということです。もっとも向いているのは健側のお胸がCカップ以内くらいの方で乳首や皮膚をとらずに乳癌の手術をした人です。あるいはインプラントや自家組織で再建したけれども、一部変形や体積がたりないところを修正したり、部分切除のお胸を修正するのにも向いています。
脂肪は例えば太ももやお腹といった比較的脂肪がたくさんあるところからとります。4-5mmの傷をあけて、カニューレと呼ばれる先がとがってない細い長い筒を入れて陰圧をかけて脂肪を吸引します。
入れるのはわきや乳癌を取る際にできた傷から注入します。この場合の傷も2-3mmですみます。
ただ、移植した脂肪はa、bのような皮弁と違って血管がついているわけではないので半分強は吸収されます。じゃあ多めにぱんぱんに入れればよいかというとそれも駄目で、脂肪を入れすぎて圧力が高まりすぎると生着率も下がりますし、しこりなどができるリスクもあります。そういう理由があるので一度にいれれる量は上限があり、大きくしたい場合は何回かいれる必要があります。
とはいえ一回の負担が少なく日帰りでできますので、自費である点と大きなお胸の再建が難しい点を除けばメリットの多い治療かと考えています。図のように皮下、大胸筋内、大胸筋下に脂肪を注入してボリュームを増やします。
- 比較表
-
人工物
インプラント
メリット- 他の場所に傷がつかない
- 術中術後の負担が自家組織比べて比較的少ない
など
- メンテナンスが必要
- 再建できる乳房の形に制限がある
など
自家組織
深下腹壁動脈穿通枝皮弁
メリット- 一度生着すればメンテナンスがいらない
- 再建できる乳房の自由度がインプラントより高い
- 皮弁壊死のリスクがほぼない
など
- 手術時間、入院期間が長い
- おなかに傷がつく
- まれに皮弁壊死や腹部膨隆などの採取場所の合併症がある
など
広背筋皮弁
メリット- 一度生着すればメンテナンスがいらない
- 再建できる乳房の自由度がインプラントより高い
- 皮弁壊死のリスクがほぼない
など
- 背中に傷がつく
- 術後に体積が減少する
- 術後に背中に水がたまることがある
- 筋力低下
など
脂肪注入
メリット- 一度生着すればメンテナンスがいらない
- 傷が4-5mm程度で済む
- 負担はもっとも少ない
- 脂肪吸引部の皮下脂肪が減少する
など
- 自費診療になる
- 大きい乳房の再建はできない
- 生着率に個人差があり、乳房の大きさによっては何回かの施術が必要
など
メリット デメリット 人工物 インプラント - 他の場所に傷がつかない
- 術中術後の負担が自家組織比べて比較的少ない
など
- メンテナンスが必要
- 再建できる乳房の形に制限がある
など
自家組織 深下腹壁動脈
穿通枝皮弁- 一度生着すればメンテナンスがいらない
- 再建できる乳房の自由度がインプラントより高い
- やわらかい
- 腹部がスリムになる
など
- 手術時間、入院期間が長い
- おなかに傷がつく
- まれに皮弁壊死や腹部膨隆などの採取場所の合併症がある
など
広背筋皮弁 - 一度生着すればメンテナンスがいらない
- 再建できる乳房の自由度がインプラントより高い
- 皮弁壊死のリスクがほぼない
など
- 背中に傷がつく
- 術後に体積が減少する
- 術後に背中に水がたまることがある
- 筋力低下
など
脂肪注入 - 一度生着すればメンテナンスがいらない
- 傷が4-5mm程度で済む
- 負担はもっとも少ない
- 脂肪吸引部の皮下脂肪が減少する
など
- 自費診療になる
- 大きい乳房の再建はできない
- 生着率に個人差があり、乳房の大きさによっては何回かの施術が必要
など
- 料金※脂肪注入以外は保険診療です
-
脂肪注入再建は現時点で自費診療です
片胸220,000円(税込)
両胸330,000円(税込)
静脈麻酔代込みです、この他に
血液検査代11,000円(税込)
圧迫下着代11,000円(税込)
がかかります。どの再建がよいかの相談は無料です。お気軽にご相談ください。